ArcGIS Pro 3.6で整理された座標系の名称とWebメルカトルについて

ArcGISには、さまざま地図投影法や測地系が定義されていて、それらを組み合わせ座標系(ISOでいうところの座標参照系)もさまざま用意されています。12月19日から国内対応を開始したArcGIS Pro 3.6日本語版では、プリセットされている座標系の日本語名が、日本の地図学で馴染み深い名称に変更されました。

目次

世界範囲を示すための座標系の名称

[マップ] プロパティ → [座標系] タブや、ジオプロセシング ツールで[座標系]を選択するダイアログで確認できます。

よく使われる世界地図の地図投影法が適用されたフォルダーは、[投影座標系] → [世界] / [世界 (球体ベース)] で確認できます。

ArcGIS Pro 3.6 日本語版の[座標系]ダイアログ

ここに表示されている一覧は、WGS84測地系に基づいたもので、世界地図を表示するのに適したパラメーターがプリセットされたものです。

たとえば、メルカトル図法は円筒図法なので、中央子午線(地図の中央)をどの経度にしても大陸の形自体は変更されません。本初子午線はたいてい経度0度(グリニッジ子午線)が設定されていますが、この値を変更すると、たとえばイコール アース図法では大陸の形が異なります。プロセットされている「アジア太平洋中心」や「アメリカ中心」を選択すると、大陸の形状が異なることがわかります。

ArcGIS Pro 3.6がサポートしている地図投影法

地図投影法は、座標系の一覧にプリセットされたものだけではありません。パラメーターをさまざまに変更することで多彩な地図表現ができます。規定の地図投影法のパラメーターが存在しないものもあります。たとえば、正距方位図法のパラメーターには「中央子午線」の「原点の緯度」があり、この2つの経緯度を変更すれば地図の中心の位置が決まります。

ArcGIS Pro 3.6時点での地図投影法は、このような一覧をサポートしています。[座標系]ダイアログで、適当な投影座標系を右クリック → [コピーして変更] → [投影法]のプルダウンをクリックすれば確認できます。

なぜ「Webメルカトル」に変更されたのか

ArcGIS Pro 3.6では、"Web Mercator"の翻訳語も変更されました。これまで、[投影座標系] → [世界] フォルダー内に含まれていたことから、他の名称である「サンソン図法」「モルワイデ図法」などと同様に、「Web メルカトル図法 (球体補正)」と約されていましたが、ArcGIS Pro 3.6では「Web メルカトル (球体補正)」となり、「図法」という名称が省略されました。

座標系 = 測地系 + 地図投影法(パラメーターを含む)

ですので、元々このツリーにあるプリセットはすべて座標系を意味する名称、たとえば「サンソン図法 (Sinusoidal)」は、「WGS84測地系を中央子午線0度のサンソン図法で表現した座標系」であることを暗喩しています。「サンソン図法」は地図投影法の名前として存在していますが、「Web メルカトル」は地図投影法の名前として存在しません。「Webメルカトル」は座標系の名称であり、次の意味があります。

Web メルカトル座標系 = WGS84測地系 + メルカトル図法(球体補正<赤道半径を球の半径とする>)

「メルカトル図法(球体補正)」は、「Mercator (Auxiliary Sphere)」を日本語に訳したもので、上記の投影法一覧にあります。QGISのようなFOSS4Gでは、「Pseudo Mercator(疑似メルカトル図法)」と呼ばれています。詳しい解説は別でしているのでご参考ください。

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このような中、国土地理院では地理院タイルの説明として、地図投影法は「ウェブメルカトル図法」で、測地系は「世界測地系 (JGD2011)」と説明されています。

Webメルカトルは測地系がWGS84を前提としているので、JGD2011では有りません。両者ともに広義の世界測地系なので問題は生じませんが、そもそもJGD2011は日本の領土を測量するために定義された測地系なので、海外で使用されることはありません。そして、「ウェブメルカトル図法」という地図投影法は存在しないので、書き手と読み手のお互いが誤解し合って共通認識している状態です。

しかし、ここまで誤解が広まっていると、今更「Webメルカトル座標系」として資料を書き換えるのにもコストがかかるため、あえて「Webメルカトル」という曖昧な表記に留める処置がなされました。

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この記事を書いた人

伊達と酔狂のGISエンジニア。GIS上級技術者、Esri認定インストラクター、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、潜水士、PADIダイブマスター、四アマ。WordPress は 2.1 からのユーザーで歴だけは長い。
代表著書『"地図リテラシー入門―地図の正しい読み方・描き方がわかる
GIS を使った自己紹介はこちら。ESRIジャパン(株)所属、2021年度~2023年度まで青山学院大学非常勤講師も兼務。日本地図学会常任委員。発言は個人の見解です。

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