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GIS で使用される高さの種類

2018/10/8 (月)

今回は高さの種類に関するお話です。

高さの種類

高さとは、水平方向に対する鉛直方向の長さです。ビルの高さとか山の高さとかいろいろあります。たとえば日本で有名な電波塔である東京タワーの高さは 333m(昭和33年完成)で、東京スカイツリーは 634m(武蔵国)です。しかし、塔の頂上の標高は東京タワーが約 351m、東京スカイツリーが 636m です。一般的にビルやタワーの高さというと建築物の底辺を基準に測りますが、標高は海抜を基準にして測ります。このように、何を基準にして測定するのかによって高さの値は変わってきます。

GIS 関連分野でよく使われる高さは 3種類あります。

  • 楕円体高
  • ジオイド高
  • 標高

それぞれの関係を順に説明していきます。

楕円体高

楕円体高とは、準拠楕円体面からの高さです。準拠楕円体とは、地球を回転楕円体と見立てたモデルの表面からの高さです。地球は丸いですが球(完全な丸いもの)ではなく、自転の遠心力で赤道方向に少し膨らんでいます。実際には山脈や海溝など起伏に富んでいますが、正確な起伏を加味して位置を測定するのは無理なので地球を回転楕円体と見立てて位置を計測しています。実際の地球にできるだけ合う回転楕円体として、長(赤道)半径、短(極)半径、(そこから求められる扁平率)を定め、これを地球楕円体として定義します。地球楕円体が国、地域などの測量・地図作成の拠り所となりますが、地球の測量のために定義された地球楕円体を特に準拠楕円体といいます。準拠楕円体面は地球を測定する精度の向上と共に様々な種類があります。

楕円体高は、準拠楕円体面から鉛直方向に観測点まで伸ばした長さとなります。

GNSS で計測される高さ (1)

登山などで使うハンディGPS(GNSS)デバイスで高さを求めることができますが、GNSS で求められる高さは楕円体高です。日本では準拠楕円体の表面である楕円体高 0m は地表面より下の地下になります。

ただし、後述するように、デバイスやアプリケーションによっては楕円体高ではなく標高を返すように考慮されているものもあるので注意してください。

ジオイド高

地球の形状を詳細に表したモデルをジオイドといいます。ジオイドとは、潮汐の差を平均化した平均海面が地球の全海域を占めたと想定して、潮汐、海流、波がない静水面を仮定し、また陸部には細い溝を通って海水を導入したと仮定して作られる面です。この海水を浸した面をジオイド面といい、等重力ポテンシャル面ともいいます。

準拠楕円体面からジオイド面までの高さをジオイド高といいます。観測点のジオイド高は計算で一律に求められるものではなく測定しなければ判かりません。近年人工衛星の軌道を解析することで詳細なジオイド面が判明してきました。ジオイド面は準拠楕円体に対して、北極付近では 15m 高く、北半球の中緯度で 7.5m 低く、南半球の中緯度で 7.5m 高く、南極付近で約15m 低い西洋梨のような形状をしています。日本本土周辺はおおむね 15m~50m あります(参考)。

ジオイド高は、楕円体面から鉛直方向にジオイド面まで伸ばした長さとなります。

標高

ジオイド面から観測点までの高さを標高といいます。標高を求めるには楕円体高とジオイドが必要なので最後に持ってきました。

ジオイドが平均海面で作られる面であるなら標高 0m は平均海面と一致するはずですが、日本の場合はそうでもありません。日本の標高は東京湾の平均海面を水準測量によって全国に展開しているのですが、大阪湾のように、東京湾から離れた場所の平均海面は標高 0mと一致しない場合があるのです。河川や港湾工事で標高を使うと都合が悪い場合は、それぞれの工事事務所で独自の基準面を設けたりします(参考)。

しかし、日本の標高は「東京湾平均海面 = ジオイド面 = 標高 0m」とみなして計測します。

また、厳密にいうと、標高はジオイド面から鉛直方向に観測点まで伸ばした長さとなります。ジオイド面と楕円体面は必ずしも平行ではありません。地上では楕円体の法線とジオイド面の法線は異なり、法線同士には小さな角度差が生じます。これを鉛直線偏差といいます。さらに鉛直線は重力の等ポテンシャル面に直行するため、厳密には曲線であり、わずかな長さの差が生じます。しかし、その差は通常 1mm よりも小さく実用上は無視できます。

海抜

場所によっては海面と標高 0m が一致しないことがあると説明しましたが、これだと東京湾付近以外の地方だと都合が悪いです。そのため、その付近の海面からの高さを示す際に海抜を使用します。海抜は平均海面の場合もありますし、平均海面にすると満潮時より低い高さとなってしまうために最低潮位で示す場合もあるようです。

GNSS で計測される高さ (2)

また、先に GNSS で計測される高さは楕円体高が求められると説明しましたが、楕円体高は標高との差が大きく普通の人にはなじみがないため、機種によっては標高が求められるものもあります。これはデバイスにジオイド データを内蔵しているためです。楕円体高は計算によって求められますが、ジオイド高は計測データが必要になります。機種によっては GNSS の電波ではなく気圧計で高さを求めるものもあります。

日本水準原点

日本の標高の基準は、日本水準原点によって示されています。当初 24.5m と定義しましたが地震の影響で基準が変更され、現在は 24.39m です。

東京湾の平均海面からの標高変更理由
1891年24.5000 m
1923年24.4140 m関東大震災による地殻変動
2011年24.3900 m東日本大震災による地殻変動

国会議事堂前の元陸軍陸地測量部の敷地内にあるのですが、普段は水準原点は石標を保護している建物の外観しか見ることができません。始めて外観を見たのは高校の修学旅行でわざわざ班行動を途中抜けて見に行きました(笑)。そのときは建物の外観だけでしたが、年に一度(測量の日である6月3日の約1ヶ月前)内部が一般公開されるので、2013年に教育の一環として会社の後輩を連れて見学に行ったことがあります。

まとめ

3種類の高さを説明してきました。まとめるとこのようになります。

高さの種類

標高 (H) = 楕円体高 (h) - ジオイド高 (N)

※平均海面はジオイド面と等しいとみなす
※標高とジオイド高は鉛直方向が異なり鉛直線偏差を生じるが無視して良い

余談

ところで、サバンナ八木さんの「ブラジルの人聞こえますかー?」というギャグについて、少し前に日本の裏はブラジルではないという記事があってネットのニュースにも出てましたが、ジオグラファーにとってはそんなの当たり前だし、だいたい日本の反対ってことでブラジルと言ったんだと思っていました。もう少しジオグラファーっぽく的確に突っ込むと
地面の真下(重力方向)は地球の中心を通りません

地面の真下はジオイド面に対しての鉛直方向です。地球の中心は準拠楕円体の鉛直方向なのでズレがあります。ジオイド面と地表面・準拠楕円体面だと 1mm 以下で無視できると言いましたが、6000km 以上離れた地球の中心だと相当な差が出てきます。

参考・引用

訂正

2018年10月10日:図を修正しました。当初、鉛直線の下方向を「地球の中心」と書いていましたが、準拠楕円体面に垂直な線を下に伸ばして地球の中心と交わるのは北極点、南極点、赤道のみでした。

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  • この記事を書いた人

羽田 康祐

伊達と酔狂のGISエンジニア。GIS上級技術者、Esri認定インストラクター、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、潜水士、PADIダイブマスター、四アマ。WordPress は 2.1 からのユーザーで歴だけは長い。 代表著書『地図リテラシー入門―地図の正しい読み方・描き方がわかる』 GIS を使った自己紹介はこちら。ESRIジャパン(株)所属、元青山学院大学非常勤講師を兼務。日本地図学会第31期常任委員。発言は個人の見解です。

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