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地球を真球と見なしても良い地図の縮尺

ArcGIS には回転楕円体が適用されない地図投影法があった

ArcGIS for Desktop ヘルプでサポートされている投影法の解説を読んでいると、いくつかの投影法で「球面上でのみサポート」と書かれたページがあります。たとえば「エケルト図法(第 4 図法)」の下部にこの記述が書かれています。

以前、これの意味がよく分からなくて上司と話題になった際に、Esri フォーラム のスレッドに書かれているのを見つけてもらいました。

Projections identified as "sphere-only" only use a radius value from a sphere. If you use a projected coordinate system that's based upon a geographic coordinate system that uses a spheroid (ellipsoid), we use the semimajor axis as the sphere's radius.

Esri の Projection 関連のスペシャリストである、Melita Kennedy さんの投稿から解釈すると、「球面上でのみサポート」と記載されている投影法の場合、座標系に回転楕円体を指定しても球体として扱われ、楕円体の長半径が球体の半径として使用される、とのこと。

小縮尺地図なら地球を球と見なしてもよい

ということは「球面上でのみサポート」と示された投影法では回転楕円体を設定しても実際の地図は長半径を半径とした球体を元に投影しているということになります。それで正確に地図を表示することができるのかと疑問に思ったのですが、地図と測量の Q&A(2013 年 5 月発行版)の Q50 (39 ページ) で、以下のように記述されています。

Q50
地図投影は、どんなときでも地球を楕円体として計算しなければならないのか?

A50
作図する地図が小縮尺の場合、地球を球として計算しても良いことになっています。この場合、どの縮尺からを、小縮尺と考えるのかが問題となっています。
地球を球として計算する場合は、その半径を地球楕円体の3軸 (X Y Z) 半径の平均とすることが、通常の地図作成で行われています。日本の測量法では GRS80 地球楕円体を3軸半径の平均をとって 6,371.0km としています。過去においてベッセル地球楕円体の 3軸半径の平均は 6,370.3km としていた時代もあります。
次に、日本の領土とその周辺の地域を対象とする場合と、地球表面の全域あるいは極、赤道を含む阪急程度を対象範囲とする場合の二つに分けて考えてみます。

(1)日本の領土とその周辺の地域を対象範囲とする場合
対象範囲を、具体的に北緯20度~21度、東経120度~160度と仮定します。
地球楕円体の子午線長は、北緯20度~21度で 110.7106km、49~50度で111.2194km です。一方、球の場合の子午線長はどこでも 1度差で 11.1949km です。これによると、低緯度の方で球との差が大きくその値は 484m です。これを、縮尺かすると 100万分の1 で 0.484mm、500万分の1 で 0.097mm ですから、地図上で無視できる誤差を 0.1mm までとするなら、おおよそ 500 万分の 1 以下の小縮尺の地図の場合は球として扱っても良いと考えられます。

(2)地球表面全域あるいは極、赤道を含む半球程度を対象とする範囲の場合
地球楕円体の子午線長は、緯度0~1度で 111.5744km、89度~90度で 111.6939km です。
球としたときの子午線長は前の (1) に記したとおりですから、球との差の値は最大で 620.5m となります。これを縮尺化すると 600 万分の 1 で 0.103mm、700 万分の 1 で 0.089mm ですから、おおよそ 700 万分の 1 以下の小縮尺の地図の場合は球としても扱っても良いとの結論になります。

つまり、世界地図のような小縮尺地図を前提とした地図投影法では回転楕円体を考慮する必要がないということになります。繰り返しになりますが、地球を球として見なしても良いのは小縮尺図のみということです。これは後で出てくる大切なことなので覚えておいてください。

電子地図は紙地図の縮尺の考え方がそのまま適用できる訳ではありませんが、ディスプレイ上で人間が認識できる最小の線幅が 0.1mm とするなら、同じ考え方で良いでしょう。だだし、多くの GIS ソフトは 96dpi 相当で縮尺表示されています。最近のディスプレイは高解像度化しており96dpi 以上のものが一般的です。また、ディスプレイスケーリングの設定によっても値が変わりますので気をつけましょう。これは別の記事で詳しく説明しています。

ArcGIS のサポートする地図投影法のパラメーター

さらにヘルプの続きを読むと、ArcGIS には同じ投影法でもパラメーターが異なる 2種類があります。たとえば先ほどの「エケルト図法(第 4 図法)」では

  • False Easting(東距)
  • False Northing(北距)
  • Central Meridian(中央子午線)

の 3 つのパラメーターを持つのですが、「エケルト第 4 図法球体補正(Desktop version 9.3 以降)」では、

  • False Easting(東距)
  • False Northing(北距)
  • Central Meridian(中央子午線)
  • Auxiliary Sphere Type(球体補正タイプ)

と 4 つのパラメーターになっています。

実際に ArcMap で [投影座標系プロパティ] ダイアログを開くと、いくつかの投影法には「~_Auxiliary_Sphere」と書かれたものが加わっていることが分かります。

ArcGIS の投影座標系

ArcGIS の投影座標系

「~_Auxiliary_Sphere」という投影法はバージョン 9.3 から登場したもので、こちらを選択することで球体の半径を以下の 4 つオプションから選択できるようになります。

Auxiliary Sphere Type パラメータには、0(地理座標系の長半径または半径を使用)、1(短半径または半径を使用)、2(正積半径を計算して使用)、または 3(正積半径を使用し、測地緯度を正積緯度に変換)を指定できます。

原文)The Auxiliary Sphere Type parameter accepts 0 (use semimajor axis or radius of the geographic coordinate system), 1 (use semiminor axis or radius), 2 (calculate and use authalic radius), or 3 (use authalic radius and convert geodetic latitudes to authalic latitudes).

訳語は原文を忠実に訳しているのですが、訳語の意味が理解できなかったので英語に詳しい人に聞くと「原文が "or" ではなく "as" の間違いじゃないの?」と言われました。as と読めば

  • 0:地理座標系の長半径を半径として使用
  • 1:短半径を半径として使用
  • 2:正積半径を計算して使用
  • 3:正積半径を使用し、測地緯度を正積緯度に変換

ということで意味が理解できます。前述のフォーラム スレッドでも、Melita さんは "as" を使われてます。あと「正積半径(authalic radius)」「測地緯度(geodetic latitudes)」「正積緯度(authalic latitudes)」についても調べたはずなんだけど、手元に情報が残ってなかったので後日追記しておきます。正積半径については Wikipedia に書かれてました。

まとめ

地球を真球と見なしても良い地図の縮尺は、以下のとおり。

  • 日本の領土とその周辺の地域を対象範囲とする場合:おおよそ 500 万分の 1 以下の小縮尺の地図
  • 地球表面全域あるいは極、赤道を含む半球程度を対象とする範囲の場合:およそ 700 万分の 1 以下の小縮尺の地図

ArcGIS はすべての地図投影法で回転楕円体による計算をしていますが、同一名称で後ろに "~Auxiliary_Sphere" と書かれている地図投影法では、回転楕円体を球とみなして計算しているので、小縮尺地図なら、"~Auxiliary_Sphere" を使用しても問題ありません。

そもそもこの「Auxiliary Sphere Type」なるパラメーターは Google Maps の登場によって必要に迫られて作られました。これまでの ArcGIS や それ以前の Esri 製品でも地球を球とみなしたメルカトル図法を作ることは当然できましたが、従来の方法だと普通の人にとっては困ったことが起きたのです。詳しくは別の記事で解説します。

Google Maps は地球の大きさを回転楕円体ではなく球とみなして描かれています。700万分の1 程度の縮尺でまったり世界を眺めるなら何の問題ないのですが、みんな建物1軒が表示されるまで拡大し、メートルオーダーで計測して使っています(誤解の無いように補足すると、今の距離計測は特殊な方法で正しい値を出しています)。これが問題なのですが、問題と思われないことがまた問題なのです。

参考

地図と測量のQ&A

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  • この記事を書いた人

羽田 康祐

Esri認定インストラクター、GIS上級技術者、測量士補、潜水士。GISy / GISc とその関連分野である地理学・地図学について日々の出来事で学んだ記憶を記録するためにブログを書いています。行動原理は伊達と酔狂。好きな地形は圏谷。好きな地図投影法はパースクインカンシャル図法。呉市生まれ広島市出身。GIS を使った自己紹介はこちら

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