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「UTMグリッド」と「MGRS」について

2015/2/9 (月)

シン・ゴジラの記事を書いていて、MGRS に関する仕様は別の記事にまとめ直しました。

はじめに

数年前から、国土地理院の地理院地図をはじめ様々な自治体や国の機関で「UTMグリッド」や「UTMポイント」という用語が登場しています。これは、ある地点を緯度経度などの座標に代わって表現する、地理識別子による空間参照と呼ばれる位置の特定方法です(間接参照ともいいます)。地理識別子とは堅い用語に感じますが、代表的なものに「住所」や「郵便番号」があり、人間によって理解されやすい(都合のよい)名称やコード番号で示された位置を示す情報を指します。たいてい「住所」が分かれば位置が特定できそうですが、住所は人の住まないところには存在しないし、示す範囲が広すぎる場合があるため、位置の特定が困難な場合があります。もう一つの位置を特定する方法で、座標による空間参照(直接参照ともいいます)があります。代表的な座標には緯度経度があり、緯度経度を使うと地球上の位置が瞬時に特定できますが、メートル オーダーで位置を特定するには桁数が多くなり、救助などで無線を使って位置を伝えたりする際には困難な場合も考えられます。

そこで、地域を区画で区切ってコード番号で場所を特定する地理識別子(メッシュ / グリッド コード)を使う方法が考えられます。この方法は以前からあり、

などがあります。地域メッシュは統計のために古くから使われているものですが、最大でも「8 次メッシュ(第 3 次メッシュ 20 分の 1 細分区画)」で約 50m の範囲までしか特定できません。マップコードはカーナビ系メーカー団体によって作られたものです。仕様が公開されていないので(技術仕様の開示は手続きが必要で利用料もかかる)、カーナビか特定のマップ上でしか利用することができません。LocaPoint は 10 年ぐらい前に登場したもので、0~9 と A~Z を使った 36 進数表記で世界中をメートル オーダーで特定できるというものです。36 進数なので桁数を抑えられるメリットがあり、当時画期的だなと思っていたのですが全く流行る気配がありません。nコードは堺市のある方が発明されたものです。

その他で最近防災分野を中心に話題となっているのが「UTMグリッド」です。今後想定されている大災害の防災や減災を目的として広まりつつあります。

「UTMグリッド」とは

「UTMグリッド」とは、前述のように区画で区切ってコード番号を付与する参照系の 1 つです。国土地理院の地理院地図を中心に利用されています。現在の地理院地図では「UTM グリッド」の範囲を表示させることができるようになっています。

UTMグリッド

UTMグリッド(地理院地図よりキャプチャー)

また、地理院地図では、地図の中心がどのUTMグリッドに属しているかを表示する機能があり、これを「UTM ポイント」と呼んでいます。マップ下のペインを展開すると、緯度経度と共に地図の中心地点で該当する「UTMグリッド」のコード番号が表示されます。

UTMポイント

UTMポイント(地理院地図よりキャプチャー)

では、この「UTMグリッド」は何を元に体系づけられたコードなのでしょうか。地理院地図の「UTMグリッド」はリニューアル前と後で仕様が異なっており、現在の「UTMグリッド」は「MGRS」と同一です。

「MGRS」とは

「MGRS」とは、「Military Grid Reference System」の略で、米軍発祥で NATO で使われてきた世界中の場所を最大 1 メートル オーダーで示すために開発されたグリッド コードです。Military と書かれていますが、UTM 図法もインターネットも軍事目的が発祥なので気にする必要はありません。

MGRS のグリッド コードは、緯度経度で示す場合に比べて使用する文字数を少なくして細かい範囲を特定できるのが特徴です。UTM図法がベースとなっていますが、UTM は南緯 80 度から北緯 84 度までしか表現できないので、極はユニバーサル極心平射図法(UPS)をベースとして区域が決められています。また、Easting と Northing で使用する桁数を変化させることで広い範囲から狭い範囲まで柔軟に示すことができます。

MGRS の仕様(ArcGIS for Desktop ヘルプより引用)

MGRS の仕様(ArcGIS for Desktop ヘルプより引用)

MGRS の詳しい説明は別の記事として作成しなおしました。

NGA のサイトにも詳しい資料がありますし、ArcGIS for Desktop ヘルプにも記述があります。

「UTMグリッド」と「MGRSグリッド」との違い

「MGRS(グリッド)」は米軍発祥ですが、世界共通認識の名称です。しかし国内使われている「MGRS」は「UTMグリッド」と呼ばれて使われています。最近これが話題になることがあり、「UTMグリッド≠MGRS」と認識されていたり、自分も当初「UTMグリッド=MGRS」という確証が持てなかったため、国土地理院に以下の問い合わせをしました。

  1. UTMポイントのコード値(例:54SVE17689580)は NGA が定義する「MGRSグリッド」のコード値と同等か?
  2. 「MGRS」と同等の場合、コードの名称を「UTMグリッド・UTMポイント」と名称定義された際の出典を知りたい。
  3. 1. の認識が正しい場合、なぜ国際的に標準で利用されている「MGRSグリッド」という名称を採用されなかったのか?

これに対して、国土地理院から丁寧な回答をいただきました。

「UTMグリッド」および「UTMポイント」についてはご指摘のとおり「MGRSグリッド」と同等の値です。当初、MGRSに基づかないシステムを採用していましたが全国的に利用できるようにするためMGRSに基づくルールに変更しました。しかし、名称を変更以前の名称(UTMグリッドに基づく位置情報としてUTMポイント)をそのまま使用したものです。

なお、この間防災機関等で地理院地図の「UTMグリッド」「UTMポイント」との名称で使われてきておりますのでMGRSへの対応につきましては今後検討させていただきたいと思います。

この回答をもらい、「UTMグリッド=MGRS」と確証が持てました。現在の使用はこちらに書かれています。

この先 "当初のMGRSに基づかないシステム" を認識されている方とのやりとりも考えられるため、旧システムの仕様についても資料をいただきました。

この資料を比較すると、従来は MGRS に基づかない独自仕様だったことが分かります。UTM をベースにしていたので「UTMグリッド」と名付けられたのでしょう。

以前、エプソンのニュースリリースで「UTMグリッドを表示できるようにしたGPS時計」というのがありましたが、時計にはしっかり「MGRS」と書かれます。万国共通語は「MGRS」なんですね。

 

補足

なお、上記旧資料の「MGRSグリッド入り地図の特徴」に「【将来】MGRS(UTM)座標に統一」と書かれていますが、気をつけるポイントがあります。

  • 「MGRS」は地理識別子による空間参照(間接参照系)
  • 「UTM  座標」は座標による空間参照(直接参照系)

です。MGRS を「座標」と書いてしまうと直接参照系のように誤解してしまいます。「MGRS」は座標値が由来ですが、あくまで郵便番号のような「コード」であり間接参照系です。「UTM 座標」は座標によって場所を示す投影座標系なので直接参照系です。「UTMグリッド(=MGRS)」と書かれた場合に間接参照系となります。

まとめ

国内では

「UTMグリッド = MGRS」

「UTMポイント = MGRSのコード番号」

「UTMグリッドや UTMポイントという名称が飛び交ったら、それは MGRS と同義」

と理解しましょう。

ただし、「The UTM Grid」には国際的には日本と異なる理解なので、日本で「UTMグリッド」と使われ続けると混乱の原因混乱してしまいます。

国土地理院宛にコメントさせてもらいましたが、個人的には誤解のない用語が流通することを希望します。一度流通した用語を変更するのは大変でしょうが、「今後検討させていただきたいと思います。」との返信文に期待します。

  • この記事を書いた人

羽田 康祐

伊達と酔狂のGISエンジニア。GIS上級技術者、Esri認定インストラクター、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、潜水士、PADIダイブマスター、四アマ。WordPress は 2.1 からのユーザーで歴だけは長い。 代表著書『"地図リテラシー入門―地図の正しい読み方・描き方がわかる』 GIS を使った自己紹介はこちら。ESRIジャパン(株)所属、元青山学院大学非常勤講師を兼務。日本地図学会第31期常任委員。発言は個人の見解です。

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