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高等学校「地理総合」教科書の地図単元で教えられている内容

2023/3/21 (火)

2022年度から、高等学校の地理科目は、これまでの選択必修だった『地理B』『地理A』が、必修科目の『地理総合』になり、2023年度から選択履修の『地理探究』もはじまります。

最近、中等教育(中学・高等学校)で地図についてどのような内容を教えているのか、地図教育について興味を持っていて、ずっと教科書の比較をしたいと思っていました。教科書は2022年の4月に手に入れてはいたものの、流し読みに留まっていましたが、やっと重い腰をあげてまとめました。教科書全般の比較は大変ので、ここでは個人的に関心の高い、地図とその周辺単元のみを対象にしています。

また、誤植は後から適宜修正するつもりで公開しました。そのため、記載漏れ、記載ミス、内容の誤りがありましたらご指摘ください。

教科書会社

「地理総合」の教科書を出版している会社は5社で、7種が出版しています。教科書番号順に並べると、次ようになります。それぞれ執筆されている先生方が異なるので、教科書とはいっても多様で特徴が見えてきます。

  • 地総-701 『地理総合』(東京書籍)
  • 地総-702『地理総合』(実教出版)
  • 地総-730『高等学校 新地理総合』(帝国書院)
  • 地総-704『地理総合 世界に学び地域へつなぐ』(二宮書店)
  • 地総-705『わたしたちの地理総合 世界から日本へ』(二宮書店)
  • 地総-706『高等学校 地理総合 世界を学び、地域をつくる』(第一学習社)
  • 地総-707『高校生の地理総合』(帝国書院)

※ 地総-706までが令和3年(2022年)に出版されましたが、令和4年(2023年)に帝国書院から追加で『高校生の地理総合』が出版されました。

地図や地理情報システムでとらえる現代世界

地理総合には大きなテーマが3つあり、その一つが「地図や地理情報システムでとらえる現代世界」で、ここで地球の理解や地図投影法、地図の種類などを解説します。また、領土や領海、交通・通信などもこの編(部)に相当します。

この記事では、地球の理解と地図、地図投影法に焦点を当てた比較をしました。主題図の種類やGIS解説の特徴については別の記事でまとめます。

比較表

凡例
◎:本文や図に太字で記載
○:本文に記載
△:周辺の補足説明に記載
▲:説明のみで用語の記載はない
×:未記載
※:見出しとして記載

出版社東京書籍実教出版帝国書院a二宮書店a二宮書店b第一学習社帝国書院b
教科書番号地総-701地総-702地総-703地総-704地総-705地総-706地総-707
地球儀○※○※
緯度
経度
緯線
経線
子午線
本初子午線
赤道
グリニッジ標準時(GMT)○ 世界標準時、協定世界時
日付変更線
対蹠点××
楕円体××××××
世界測地系××××××
地図の歴史××××××
地図○※
地図の4要素
(距離・面積・角度・方位)
○ 方位がない
ひずみ▲ ゆがむ× ▲ ゆがむ○ ひずみ
地図投影法×◎ 投影法◎ 地図投影法(図法)◎ 図法○ 図法◎ 地図投影法(図法)◎ 図法(地図投影法)
正角図法△(正角図)◎(正角図)
正積図法△(正角図)◎(正積図)
円筒図法×××××××
円錐図法××××××
方位図法××××××
大圏航路○ 大圏コース◎大圏航路(大圏コース)
等角航路○ 等角コース
メルカトル図法
正距方位図法
サンソン図法×××
モルワイデ図法
ホモロサイン図法
(グード図法)
××××
正距円筒図法××××××
ゴール・ペータース図法××××××◎(ピーターズ図法)

各社の特徴

あくまで私見と断っておきますが、各社の教科書を読んだ所感です。地図単元以外の特徴をまとめた記事は他にあるので参考にしてください。

  • 東京書籍『地理総合』
    • オーソドックスな印象
    • 「方位」の解説がきちんとしている(子午線からの角度までを解説)
    • 興味を誘うタイトル設定
    • この記事のテーマとまったく関係ないが、『NEW HORIZON』で有名なエレン・ベーカー先生が登場する(p.38)(Twitter
  • 実教出版『地理総合』
    • 教科書本文には固有の単語はほとんど登場しない
    • 図法の解説の仕方は佐藤先生の論文を参考にされているように思える
    • メルカトル図法への誘導として、「正距円筒図法」が登場する
    • 唯一「円錐図法」が登場する
      ※プトレマイオスの世界図(トレミー図法)が出た関係で円錐図法を解説しているが、対等な関係にある円筒図法や方位図法の解説はない。
    • 子午線の由来をコラムで解説している
  • 帝国書院『地理総合』
    • (自分が高校時代に習った印象が強いためか)オーソドックスな印象
    • 「子午線」の解説がないのが意外だった
  • 二宮書店『地理総合 世界に学び地域へつなぐ』
    • 導入として、唯一「地図の歴史」を解説したページがある(クロノメーターや羅針盤が載っているのも唯一)
      「地理B」では地図の歴史に各社ページが割かれていた(帝国書院での記載は薄いが)
    • 地球が「(回転)楕円体」であることを唯一解説
    • 同じ図法でも地図の中心(中央子午線や原点の緯度)が変わった場合に地図の見た目が違うことを図で比較して示している
    • 同様に、世界共通の測量基準として「世界測地系」も解説されている
    • (Webマップの)タイルも唯一登場する
  • 二宮書店『わたしたちの地理総合 世界から日本へ』
    • 同出版社で比較的やさしい設定の教科書のはずだが、こちらでしか解説されていない固有の地図用語がある
    • 同じ図法でも地図の中心(中央子午線や原点の緯度)が変わった場合に地図の見た目が違うことを図で比較して示している
    • 唯一「等角コース」という単語が登場する
      ※等角コースは大圏コースに対比する用語で過去の教科書や資料集で読んだ記憶はあるが、大圏航路が "great circle course" の訳からきているのに対して、等角航路は rhumbline の訳で地図学では「航程線」と訳される。"conformal course" という地図用語は存在しない。
  • 第一学習社『地理総合』
    • 唯一「地図の4要素」を強調して示している
    • 子午線の由来を図解付きのコラムで解説している
  • 帝国書院『高校生の地理総合』
    • 基本的に図表などは帝国書院『地理総合』を同じものを踏襲しているが、異なる用語で説明しているものもある。
    • ゴール・ペータース図法(ピーターズ図法として紹介)も取り上げている。

高校教科書で教えている地図投影法について思うこと

「高校地理では図法は5つだけ覚えればよい」と聞いたことがあります。「5つの図法」とは、メルカトル図法、サンソン図法、モルワイデ図法、グード図法、正距方位図法のことです。私の高校で採用されていた教科書は帝国書院で、授業では5つを習った記憶です(地図帳や資料集を読んでその他の図法も覚えようとはしていた)。教科書採用のシェアも圧倒的だし、学習参考書にもたいてい5種類は解説されているので、どの教科書でも図法は5種類教えているものだと思い込んでしまっていました。実際は、この5つの図法を教科書本文で強調して説明しているのは帝国書院だけで、サンソン図法やグード図法は半数の教科書で地図すら登場しないことが分かりました。

以前からずっと、”暗記するだけ”なら実務でほぼ使われていないサンソン図法やグード図法を覚える必要はないと思っていたのですが(モルワイデ図法も地理の主題図としてはほぼ使われていませんが、気象や気候など地学分野では割と使われています)、帝国書院以外の教科書ではすでにそのような説明がなされているものもあり、各社の平均値をとると、もはやサンソン図法やグード図法は高校の地理で知っておくべき図法ではないようです。その方が潔くて覚える量も減ってシンプルです。

他の教科や単元と同様に、数少ない地図投影法を丸暗記してもあまり意味はありません。ミラー図法をメルカトル図法と勘違いすることは頻繁にあるので、どうせなら、メルカトル図法はミラー図法と間違わないくらい形を丸暗記してほしいものです。

この「5つの図法」は、地図投影法の原理を説明するために以前から採用されてきたのだと想像していますが、時代と共に地図の原理は解説がどんどん薄くなってきました。教科書に書かれていないこと(読んだだけでは分からないこと)を解説するのが先生の役割ですが、限りある時間ですべてを解説するのは難しいようで、地図投影法の部分は深入りしない人が多いようです(大抵の生徒は眠くなるからという理由で)。

サンソン図法は図郭や極周辺のひずみが大きいので、世界地図としての実用性は低く、主題図で使用されることありません。しかし、正積図法の原理を簡単に理解するには、重要な地図投影法です。同様に、グード図法も、現在の実務分野では使われていません。 断裂図も現在の主題図で使われることはほとんどありません。過去の高等学校の地図帳を読むと、グード図法をさらに圧縮法にして主題図に使われてることがありましたが、現在ではエケルト第3図法やエケルト第4図法、ヴィンケル第3図法(トリペル図法)、ロビンソン図法といった平極図法を使うのが主流です。まだ実用として見る機会は少ないですが、最近作られた図法であるナチュラルアース図法やイコールアース図法もあります。正積図法の例を暗記させるなら、エケルト第4図法を示した方が実用的です。

参考文献

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  • この記事を書いた人

羽田 康祐

伊達と酔狂のGISエンジニア。GIS上級技術者、Esri認定インストラクター、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、潜水士、PADIダイブマスター、四アマ。WordPress は 2.1 からのユーザーで歴だけは長い。 代表著書『地図リテラシー入門―地図の正しい読み方・描き方がわかる』 GIS を使った自己紹介はこちら。ESRIジャパン(株)所属、元青山学院大学非常勤講師を兼務。日本地図学会第31期常任委員。発言は個人の見解です。

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