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メルカトル図法の 1km は実際どれくらいの距離なのか

2018/10/21 (日)

今回はメルカトル図法の距離に関するお話です。前回は緯度・経度の 1度が場所によってどれくらいの距離なのかを測りましたが、今回はメルカトル図法で示される距離の実際を検証します。

はじめに

メルカトル図法は正角図法で形は正確だが距離や面積は正確ではない

メルカトル図法は上記の特性があります。前回の記事でも触れましたが、Google Maps は 2018年8月からメルカトル図法以外に外射図法でも表示できるようになりました。これで地図の見た目は宇宙からの見た目と同じになった訳ですが、ArcGIS Online地理院地図など他の Web マップ サービスは依然としてメルカトル図法(Webメルカトル)が多く使用されています。

メルカトル図法を使用して、例えばこのような主題図を作成したとします。この地図には大きな問題があります。

メルカトル図法にスケールバーを配置した例

メルカトル図法では(赤道上を除いて)距離は正しくないので、スケールバーを配置するのは不適切です。スケールバーが配置されると一般的に地図の読み手は図上どこでもスケールバーと同じ距離になると理解します。上記の地図で示されるスケールバーが正確なのは赤道上のみです。ArcGIS Online のマップ ビューアーや Google Maps でもスケールバーがありますが、これは現在表示されている地図のある場所(おそらく中心)における縮尺に基づいて動的に変化します。大縮尺で表示すれば誤差の範囲内ですが、小縮尺で表示すると正確な表示にはなりません。

メルカトル図法で示すスケールバーは正確でないと説明しましたが、どれくらい正確でないのか気になります。ということで、メルカトル図法によって示された 2点間の距離と測地線距離がどれくらい異なるのか計測してみます。

前提条件

地球の大きさには様々な定義がありますが、今回も赤道半径と極半径が異なる WGS84 楕円体を使用します。

WGS84楕円体
赤道半径:6,378,137m、扁平率の逆数:298.257223563
GCS_WGS_1984 (4326)

回転楕円体における計算式で長さを求めることもできますが、難しい計算は ArcGIS にやらせようということで今回も arcpy という API を使用して計算しました。

経度0度上で北緯0度~ 90度まで1度ずつの間隔で点を置き、その緯度経度の座標をメルカトル図法の座標に換算します。換算後の座標から東西南北に 500m 延伸させ、「東西・南北で 1km の線分」を作成します。作成した線分の測地線距離を測定します。

メルカトル図法上 1000m の測地線距離と拡大率

図法上 1000m の測地線距離を求めた結果です。メルカトル図法は緯度によって実際の距離が異なり、高緯度になると顕著に拡大率が大きくなります。89度以上は計算できないので除外しました。

Spatial Reference: World_Mercator (54004)
GCS: GCS_WGS_1984 (4326)

緯度 東西距離 (m) 南北距離 (m) 東西拡大率 (%) 南北拡大率 (%)
88 35.0167580 35.0167581 2855.7755127 2855.7755069
87 52.5115344 52.5115345 1904.3435161 1904.3435122
86 69.9899931 69.9899932 1428.7756803 1428.7756775
85 87.4467041 87.4467042 1143.5536774 1143.5536751
84 104.8762450 104.8762452 953.5047714 953.5047695
83 122.2732033 122.2732036 817.8406820 817.8406804
82 139.6321783 139.6321785 716.1672993 716.1672979
81 156.9477825 156.9477828 637.1545898 637.1545886
80 174.2146444 174.2146448 574.0045581 574.0045570
79 191.4274098 191.4274101 522.3912298 522.3912288
78 208.5807435 208.5807439 479.4306431 479.4306422
77 225.6693320 225.6693324 443.1262286 443.1262278
76 242.6878845 242.6878850 412.0518839 412.0518831
75 259.6311354 259.6311358 385.1618176 385.1618169
74 276.4938455 276.4938460 361.6717031 361.6717024
73 293.2708046 293.2708051 340.9817767 340.9817761
72 309.9568324 309.9568330 322.6255709 322.6255703
71 326.5467811 326.5467816 306.2348362 306.2348356
70 343.0355364 343.0355370 291.5149872 291.5149867
69 359.4180200 359.4180206 278.2275636 278.2275631
68 375.6891905 375.6891911 266.1774747 266.1774743
67 391.8440456 391.8440462 255.2035717 255.2035713
66 407.8776238 407.8776244 245.1715764 245.1715760
65 423.7850055 423.7850062 235.9687075 235.9687071
64 439.5613152 439.5613159 227.4995468 227.4995465
63 455.2017227 455.2017233 219.6828242 219.6828239
62 470.7014446 470.7014452 212.4488912 212.4488909
61 486.0557461 486.0557467 205.7377180 205.7377177
60 501.2599423 501.2599429 199.4972899 199.4972896
59 516.3093996 516.3094002 193.6823155 193.6823152
58 531.1995372 531.1995378 188.2531761 188.2531759
57 545.9258284 545.9258290 183.1750666 183.1750664
56 560.4838021 560.4838027 178.4172881 178.4172879
55 574.8690440 574.8690446 173.9526611 173.9526609
54 589.0771979 589.0771985 169.7570375 169.7570374
53 603.1039670 603.1039675 165.8088911 165.8088910
52 616.9451149 616.9451154 162.0889729 162.0889727
51 630.5964672 630.5964677 158.5800194 158.5800193
50 644.0539124 644.0539129 155.2665050 155.2665049
49 657.3134030 657.3134034 152.1344302 152.1344301
48 670.3709565 670.3709569 149.1711403 149.1711402
47 683.2226568 683.2226573 146.3651695 146.3651694
46 695.8646550 695.8646554 143.7061062 143.7061061
45 708.2931703 708.2931707 141.1844758 141.1844758
44 720.5044911 720.5044914 138.7916401 138.7916400
43 732.4949758 732.4949761 136.5197077 136.5197077
42 744.2610540 744.2610543 134.3614575 134.3614575
41 755.7992269 755.7992271 132.3102703 132.3102703
40 767.1060684 767.1060686 130.3600690 130.3600690
39 778.1782261 778.1782263 128.5052661 128.5052660
38 789.0124216 789.0124217 126.7407170 126.7407169
37 799.6054515 799.6054516 125.0616786 125.0616786
36 809.9541881 809.9541882 123.4637730 123.4637730
35 820.0555803 820.0555802 121.9429541 121.9429541
34 829.9066535 829.9066535 120.4954793 120.4954793
33 839.5045113 839.5045112 119.1178828 119.1178828
32 848.8463352 848.8463351 117.8069526 117.8069526
31 857.9293856 857.9293855 116.5597095 116.5597096
30 866.7510024 866.7510021 115.3733884 115.3733884
29 875.3086050 875.3086047 114.2454209 114.2454209
28 883.5996935 883.5996932 113.1734209 113.1734209
27 891.6218489 891.6218485 112.1551700 112.1551700
26 899.3727332 899.3727328 111.1886055 111.1886055
25 906.8500902 906.8500898 110.2718091 110.2718091
24 914.0517460 914.0517455 109.4029965 109.4029966
23 920.9756089 920.9756084 108.5805086 108.5805086
22 927.6196704 927.6196699 107.8028024 107.8028024
21 933.9820050 933.9820044 107.0684440 107.0684441
20 940.0607706 940.0607700 106.3761016 106.3761016
19 945.8542091 945.8542085 105.7245388 105.7245388
18 951.3606465 951.3606458 105.1126094 105.1126094
17 956.5784931 956.5784923 104.5392518 104.5392519
16 961.5062437 961.5062430 104.0034848 104.0034849
15 966.1424782 966.1424774 103.5044026 103.5044026
14 970.4858614 970.4858606 103.0411714 103.0411715
13 974.5351433 974.5351425 102.6130260 102.6130261
12 978.2891595 978.2891586 102.2192662 102.2192663
11 981.7468310 981.7468301 101.8592542 101.8592543
10 984.9071648 984.9071639 101.5324120 101.5324121
9 987.7692536 987.7692527 101.2382190 101.2382191
8 990.3322763 990.3322753 100.9762101 100.9762102
7 992.5954977 992.5954967 100.7459738 100.7459739
6 994.5582691 994.5582681 100.5471505 100.5471506
5 996.2200280 996.2200270 100.3794314 100.3794315
4 997.5802983 997.5802973 100.2425571 100.2425572
3 998.6386904 998.6386894 100.1363165 100.1363166
2 999.3949014 999.3949003 100.0605465 100.0605466
1 999.8487145 999.8487135 100.0151308 100.0151309
0 1000.0000000 999.9999990 100.0000000 100.0000001

メルカトル図法の誤解

メルカトル図法の緯度に対する拡大率は余弦からこのように求められます。

緯度(φ) 上の拡大率 = 1/cos(φ)

0°:1
60°:2
75°:2.9238
80°:5.7588
85°:11.4737

仮に「メルカトル図法は地球に円筒を被せて中心から光を当てた影」でできるとすると、そんなにゆるやかな拡大率はとはなりません。これについては以下の書籍で解説されています。

地図投影法

地図投影法

政春尋志
4,200円(04/25 16:29時点)
Amazonの情報を掲載しています

『地図投影法』P45 column4 地図投影法についてよくある間違い
地図投影法に関して広まっている誤解の筆頭は、メルカトル図法の原理に関するものであろう。球に円筒を巻きつけて球の中心から投影すればメルカトル図法が得られるという解説や図解は、学生用参考書や一般向けの地図に関する書籍によく見られるものであるが、間違いである。こうして得られる投影は心射円筒図法であってメルカトル図法ではない。

私もこの書籍を読んではじめて誤りに気づきました。メルカトル図法の計算式はこちらに記載があります。

まとめ

計測した結果、緯度25度くらいまでは1割程度、36度あたりで2割の拡大率で、60度になるとほぼ2倍となり、高緯度になるほど顕著に拡大率が大きくなりました。そのため、メルカトル図法は距離や面積の測定には不向きだということが分かります。また、同一地点で東西と南北の拡大比率はほとんど同じです。このことから、メルカトル図法は歪みが少ない(形状は正確)ということが分かります。

2年ほど前「意外と日本って大きい。」というタイトルで The True Size Of... サイトを紹介し、ネットで盛り上がりましたがあのタイトルはナンセンスです。メルカトル図法は北にいくほど拡大されるのだから日本が大きくなるのは当たり前です。比較するなら赤道に移動させ「ロシアって意外と小さい。」というタイトルにするべきでしょう(ロシアは面積世界一なので赤道に移動しても大きいんだけど)。

ソースコード

Python ウィンドウにそのまま貼り付けてご利用ください。ArcMap 10.4、AcGIS Pro 1.3、ArcGIS Pro 2.2 で動作確認しております。arcpy.SpatialReference の引数である EPSG 番号を変更して一般的に使用される球体としての地球で計算することもできます。

#coding:UTF-8

# メルカトル図法の指定距離における測地線距離
# 経度0度、北緯0度~90度を中心に東西・南北の指定距離を
# 測地線距離に換算して比較

# ArcGIS Pro 1.3,ArcGIS Pro 2.2, ArcMap 10.4.1 で動作確認

import arcpy
import copy

# WGS84楕円体
# 赤道半径:6,378,137m、扁平率の逆数:298.257223563
# GCS_WGS_1984 (4326)
gcs = arcpy.SpatialReference(4326)
#gcs = arcpy.SpatialReference(4035)	# 地球半径 Authalic Shpere GCS_Shpere GCS_Sphere (4035)

# メルカトル図法
pcs = arcpy.SpatialReference(54004)

# 測定係数
ratio = 1000 # (m)

print("Spatial Reference: {0} ({1})".format(pcs.PCSName, pcs.PCSCode))
print("              GCS: {0} ({1})\n".format(gcs.GCSName, gcs.GCSCode))
print("メルカトル図法上 {}m の測地線距離\n".format(ratio))
print("{}\t{}\t{}\t{}\t{}".format("緯度", "東西距離 (m)".ljust(10), "南北距離 (m)".ljust(10), "東西誇張率 (%)".ljust(10), "南北誇張率 (%)".ljust(10)))

for lat in range(88, -1, -1):
    # 中心点を投影変換
    point = arcpy.Point(0, lat)
    point_gcs = arcpy.PointGeometry(point, gcs)
    point_pcs = point_gcs.projectAs(pcs)

    # 東西長
    point_width_from = copy.copy(point_pcs.trueCentroid)
    point_width_to = copy.copy(point_pcs.trueCentroid)
    point_width_to.X += 1 * ratio
    polyline_width = arcpy.Polyline(arcpy.Array([point_width_from, point_width_to]), pcs)
    length_width = polyline_width.getLength("GEODESIC")
    
    # 南北長
    point_height_from = copy.copy(point_pcs.trueCentroid)
    point_height_from.Y -= 0.5 * ratio
    point_height_to = copy.copy(point_pcs.trueCentroid)
    point_height_to.Y += 0.5 * ratio
    polyline_height = arcpy.Polyline(arcpy.Array([point_height_from, point_height_to]), pcs)
    length_height = polyline_height.getLength("GEODESIC")  
    
    print("{:0=2}\t{:0=13.7f}\t{:0=13.7f}\t{:0=13.7f}\t{:0=13.7f}".format(lat, length_width, length_height, ratio / length_width * 100, ratio / length_height * 100))

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  • この記事を書いた人

羽田 康祐

伊達と酔狂のGISエンジニア。GIS上級技術者、Esri認定インストラクター、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、潜水士、PADIダイブマスター、四アマ。WordPress は 2.1 からのユーザーで歴だけは長い。 代表著書『地図リテラシー入門―地図の正しい読み方・描き方がわかる』 GIS を使った自己紹介はこちら。ESRIジャパン(株)所属、元青山学院大学非常勤講師を兼務。日本地図学会第31期常任委員。発言は個人の見解です。

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