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4の字方位記号のルーツを探る

2019/7/29 (月)

日本人にとっておなじみの方位記号といえば 4の字にも似ているこの記号だと思います(以下「4の字方位記号」といいます)。

以前の記事で北には 3種類あると説明しましたが、地図において北を示す方位記号にも複数の種類があるようです。

ArcGIS Desktop 日本語版関連のインストールを行うと国土地理院図式規定の地図記号は使えるようになりますが、4の字方位記号は現時点では用意されていません。方位記号はエレメント(グラフィック)なので、フォントで作成するか画像ファイルを用意すれば作成できます。画像ファイルだと解像度依存になるのでフォントとして作成するのが理想ですが、個人でカスタム フォントを作成するのは少々ハードルが高いです。

4の字方位記号は磁北を示す、/と|は磁気偏角を示す?

そんなところで方位記号関連の情報をインターネットで調べていると、以下の記事を見つけました。

4の字方位記号は磁北を示しており、|は磁北の方向、/は真北方向で、/と|とをとりなす角度は磁気偏角である

この記事を読んだ当初は「これは知らなかった。」と目から鱗でした。そうすると方位記号は場所によって三角形の形状が異なるためフォントを作成して一様に定義することができません。なるほどと思ったその後、そもそも 4の字方位記号と偏角の定義を誰(どの機関)が定義したのか気になって調べたところ、1件の論文が見つかりました。

方位記号の種類

この論文によると、4の字方位記号は、旧通産省工業技術院傘下の地質調査所が 1953年に定めた地形図図式規定に書かれており、磁北を示すために 4の字方位記号が使用されていたようです。論文によると同年代の国土地理院の図式規定では磁北に別の記号が使われていたようです。

3つの北記号のまとめ (長浜ほか (1987) より引用)

/と|が磁気偏角を示すという根拠がない

しかし、論文では磁気偏角に関する記述が見られなかったため、出典となる地質調査所の後継機関である産業技術総合研究所の地質調査総合センターに問い合わせし、丁寧な回答をいただくことができました。

旧地質調査所の地形図図式規定では、4の字方位記号は磁北を示すものとして規定はされていたが、/は真北の方向で、/と|を取りなす角度が磁気偏角を示すという規定は定められていない

当時の図式規定の複製をいただいたのですが、たしかに記述はありませんでした。また、論文や図式規定に記載されている磁北と真北を組み合わせた図を見ると、あきらかに/は真北と一致していません。

磁北と方位記号 (長浜ほか (1987) より引用)

加えて以下の情報をいただきました。

旧地質調査所の地形図図式規定は、地質調査所が製作・出版した報告書や地質図説明書に掲載する地形図作成において参照されたものです。当時は、簡易な地形測量については地質調査所が自身で行っていた場合もあり、このような地形図図式に関する規定が整備されたものと思われます。したがって、公的機関が(社会の規則として)定めたものではないことにご注意いただき、ご参照いただければと思います。

ちなみに、地質調査総合センターでは地質図をつくる JIS(JIS A0204) の原案作成委員会を主導しておりますが、国土地理院との協議の結果、地形要素に関わることは、この JIS では定義しておりません。

1953年規定がいつまで使われていたかについては、すぐに参照できる記録がありません。個人の記憶ですが、すでに1990年頃には使われておらず、地質学会の地質学雑誌に北の書き方の例があったものを使うと教えられた記憶があります。

ここでは、長浜ほか (1987) では、「1953年規定が内部規定であって社会の規則を定めるものではない」ということを明確に記載しないまま、方位記述の方式だけを取り上げて、結論では「地質調査所の図式規定 (1953) によることが望ましい」と述べています。これは、自由な参照が保証されていない内部規定での表示法を推奨するという書き方になっており、いささか適正さに欠けるものと考えられます。

その他、4の字方位記号の偏角に関する記事を書いているサイトに問い合わせましたが、残念ながら返信がありませんでした。情報を掲載してる会社はコンパスを販売しているのですが、その知識の出典が記載されておらず、根拠が不明です。Yahoo!知恵袋で回答している人のリンク先を見ると地図学関係者ではなさそうです。

まとめ

  • 4の字方位記号は旧地質調査書の規程が出典と長浜ほか (1987) の論文から読みとれたため、地質調査総合センターに問い合わせたところ、当時の規定にはたしかに 4の字方位記号は磁北を示すものと規定されていたが、偏角に関する記述はなかった
  • はっきり言及はできないが、4の字方位記号が磁北を示すことは該当論文から実質旧地質調査書の内規(もしくはそれ以前に事実上普及していた何らか)が流通したと推測される
  • しかし、論文では内規である旨の記述が抜けており、地質調査総合センターの意向としては、あくまで内規なので当時の図式規程に公共性ないし社会規範性があったという認識はもっていない
  • また、内規には/と|をもって偏角を示すという記述に関する記述はないし、真北と磁北が書かれた使用例を見る限り、/が真北の角度とは読み取れないため、偏角については誰かが突然言い始めたものだと考えられる

もし、4の字方位記号のルーツや偏角を示す件について出典情報をご存じの方がおられましたらコメントをお願いします。ただし、書籍や論文などの根拠を含めた情報でお願いします。

旧地質調査所の地形図図式規定はあくまで内部規定であり公共利用を目的としたものではないため、掲載・引用は不可とのことでした。長浜ほか (1987) の論文はすでに公開されているものであるため、上図は論文から引用しました。問い合わせの経緯と回答については先方の承諾を得て掲載しております。

  • この記事を書いた人

羽田 康祐

伊達と酔狂のGISエンジニア。GIS上級技術者、Esri認定インストラクター、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、潜水士、PADIダイブマスター、四アマ。WordPress は 2.1 からのユーザーで歴だけは長い。 代表著書『"地図リテラシー入門―地図の正しい読み方・描き方がわかる』 GIS を使った自己紹介はこちら。ESRIジャパン(株)所属、元青山学院大学非常勤講師を兼務。日本地図学会第31期常任委員。発言は個人の見解です。

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