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gazetteer(ガゼッティア;地名辞典)とは

2019/4/25 (木)

とある英語のセミナーで "gazetteer" という言葉が出てきました。通訳の方が「ガゼティーを、、、」と話して続けていたのですが、後になって「ガゼティーって何ですか?どんなスペルで書くのですか?」という質問があり、実は皆よく分からなかったことが発覚しました。会議の流れで専門的な用語やフォーマットの一つという印象で捉えていたようです。

gazetteer は一般的な単語じゃないのだと改めて気づいたので解説していきます。ちなみに私は英語ができない側の人なので通訳頼みでしたが「それはガゼッティアといって、、、」と補足説明したことでセミナーに参加した感はアピールできたことでしょう(笑)

gazetteer とは

カタカナ読みではガゼッティア、ギャザティア、日本語では地名集地名辞書、地名辞書と呼ばれています。地名のデータベースです。

英単語辞書にも出てくる一般名詞ですが、Weblio の学習レベルが 18 なのでややレベルの高めな単語のようです。

地名の歴史的背景や命名規則などを調べる学問として地名学があります。日本の地名集は風土記がルーツだそうですが、支配する国や地域を掌握するために地名の編纂は重要だったということですね。

人が住んでいる場所は住所で示すことができますが、日本は市町村合併などで「古い地名」はどんどん失われています。地名は主に住所の字(あざ)(大字小字)として使われていましたが、住所の合理化によって「XX丁目」となり字が消滅した地域は数多くあります。消滅した「古い地名」が災害が起こりやすいことを示唆するものだったとネットのまとめサイトにも掲載されていますが、過去の地名を記録して後世に残すためにも地名集は大切ということです。

日本国政府が刊行する地名集

国際的にも日本の地名を海外にどのように伝えるべきか地名の邦名、英名、座標がまとめられた資料があります。日本国政府が国土地理院と海上保安庁海洋情報部で編纂した「地名集日本 (GAZETTEER OF JAPAN)」です。2007 年に公開しています。2018年に更新されており、追加・削除された地名があります。ただし、市町村名、島名が主で細かい地名すべては網羅されていません。

「地名集日本」を開くと、地名だけではなく緯度経度の座標も書かれています。地名は読み方だけでなく、その地名が「どこに」あるのかを座標で対応付けすることによって GIS への活用もできるようになります。

地名集の例(国土地理院より引用)

国際標準で記述する地名集

座標との対応づけは ISO にも示されており、ISO19112(地理識別子による空間参照)では gazetteer の概念スキーマが示されています。「地理識別子 (geographic identifier)」は座標ではない、人間にとって分かりやすく示した名称のことで、住所や地名も含まれます。ISO19112 の考え方に基づけば、地名を含んだ文字を使って位置を特定することができます。

身近なところで使われている地名辞典

今回 gazetteer という単語をはじめて知ったという方でも、実は誰もが無意識に使っています。

Google Maps では住所や地名を入力して場所を検索し、検索結果としてその場所が拡大表示されます。これは Google Maps に gazetteer が内蔵されているからで、その住所・地名に対応する緯度経度を基に地図上に検索結果を表示しているのです。Google Maps の地名辞典は非公開なので ISO準拠かどうかは分かりませんが、おそらく独自仕様でしょう。

ArcGIS で地名辞典の作成

ArcGIS では、ロケーターという機能で地名辞典 (gazetteer) を管理することができます。インターネットに接続されていれば ArcGIS Online 上のロケーター サービスを自動的に読み込んで住所や地名で検索移動することができますが、独自にロケーターを作成することもできます。住所のロケーターを住所ロケーターと言いますが、日本の住所体系は複雑で、「XX丁目XX番XX号」や「XX-XX-XX」と表記があいまいです。このような曖昧な住所表記に対応したロケーターを作成するのは非常に大変なので、ArcGIS Online のロケーターか、ArcGIS GeoSuite 住居レベル住所 に同梱されているカスタム ロケーターを使用するのが簡単です。

地名辞書を基に「この場所の地名を示す」という処理もできます。ArcGIS ではリバース ジオコーディングと呼んでいますが、私は「住所の逆引き」と呼んでいます(住所から座標を特定することを「住所の正引き」)。

ArcGIS で作成できるということは、それを共有することもできるのです。様々な地名辞典が流通すれば、失われた過去の地名でも場所の検索ができるようになるかもしれません。

まとめ

gazetteer は地名集です。地名辞典とも呼ばれ、現在では住所や地名とそれに対応する座標を持ったデータベースを指します。今日の地図検索サービスで住所や地名の検索できるのは gazetteer が整備されているおかげでなのです。

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  • この記事を書いた人

羽田 康祐

伊達と酔狂のGISエンジニア。GIS上級技術者、Esri認定インストラクター、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、潜水士、PADIダイブマスター、四アマ。WordPress は 2.1 からのユーザーで歴だけは長い。 代表著書『地図リテラシー入門―地図の正しい読み方・描き方がわかる』 GIS を使った自己紹介はこちら。ESRIジャパン(株)所属、元青山学院大学非常勤講師を兼務。日本地図学会第31期常任委員。発言は個人の見解です。

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