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ナショナルジオグラフィック誌に使われている地図投影法

2021/5/10 (月)

ナショナルジオグラフィック 創刊号表紙

アイキャッチ画像はナショナルジオグラフィック創刊号(1888年)の表紙。

はじめに

Wikipedia で地図投影法の解説を読んでいると、いくつかナショナルイオグラフィック誌に関連する記述がでてきます。

要約すると、次のようになります。

1922年にナショナルジオグラフィック誌がファン デル グリンテン図法を採用し、1988年にロビンソン図法に変更、さらに 1998年にヴィンケル図法(第3図法)に変更した、と描かれています。また、ナショナルジオグラフィック誌が採用したことに影響され、他の地域や多くの教育機関や教科書が採用した。

ファンデルグリンテン図法は第1図法~第4図法までありますが、無印の場合は一般的に第1図法を指します。

以前からこの信憑性について実際の誌面で確認したいとは思っていました。ナショナルジオグラフィック誌(英語版)は、創刊号から全号が母校の図書館に蔵書されています。これは以前から知っていたのですが、別件で学生さんに作業を依頼することがあったので、ついでに頼んで調べてもらいました。

第1回 ナショジオ=「米国地理学雑誌」?

現在のナショナルジオグラフィック誌は、日本の雑誌『ニュートン』のような科学雑誌という特徴dですが(『ニュートン』自体が日本版ナショナルジオグラフィックを作ることを目的として創刊された)、元々は学術論文の雑誌でした。

調査方法

ナショナルジオグラフィックの創刊は1888年ですが、全号調べるのは大変なので、今回は Wikipedia の記事の信憑性を確認することを目的として、切り替え付近の年代に絞っています。

奈良大学図書館に所蔵されている The National geographic magazine(1910年~1959年)、National geographic(1960年~2020年10月号)を使って調査しました。

  • 1910年~1931年、1949年~1959年、1962年~1968年:雑誌内の地図を 1つずつ図法名の記載を確認し、世界地図、図法名明記の地図を抽出。
  • 上記年以外:付録地図のみを確認し、図法明記の地図のみを抽出。
    付録地図がつき始めたのは1918年5月号との記載があるが、奈良大学図書館の蔵書本で最も古い付録地図は1925年10月号だった。
  • 公的機関の Webサイトから文献を確認。

調査結果

  • ファン デル グリンテン図法(第1図法)(発表年:1898年):1922年~2001年5月号までの使用を確認
  • ロビンソン図法(発表年:1961年):1988年12月号~1994年2月号までの使用を確認
  • ヴィンケル図法(第3図法)(発表年:1921年):1995年 2月号~2010年11月号までの使用を確認

1922年以前では図法が断定できなくて、ファン デル グリンテン図法は確実に存在しなかったとは断定できませんでした。1922年以前の地図にはメルカトル図法や斜軸円筒図法が掲載されていました。上記以外の図法らしき地図もありましたが、図法名が明記されておらず特定ができません。他にも手書きの地図や既存の地図を上書きした地図などがあり、主題により様々な図法を使われていました。調べてもらった時期内でも数十種類の図法が使われています。

Wikipedia の記事によると、1つの地図投影法が使われ、時代によって切り替わったようにも受け取られますが、実際はさまざまな図法が使われています。これは創刊号から現在まで同様のようです。上記の 3つの図法は世界地図に適したものなので、国や地域を示すに別の図法が使われるのは当然といえます。

ファン デル グリンテン図法(第1図法)と思われる(ナショナルジオグラフィック1922年12月号)
ロビンソン図法(ナショナルジオグラフィック1988年12月号の付録
ヴィンケル図法(第3図法)(ナショナルジオグラフィック1995年2月号の付録)

なお、今回紹介した3つの図法はいずれも正角でもなければ正積でもありません。しかし全体的な歪みを押さえた図法です。ヴィンケル図法は現在も主題図で見かけます。

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  • この記事を書いた人

羽田 康祐

伊達と酔狂のGISエンジニア。GIS上級技術者、Esri認定インストラクター、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、潜水士、PADIダイブマスター、四アマ。WordPress は 2.1 からのユーザーで歴だけは長い。 代表著書『地図リテラシー入門―地図の正しい読み方・描き方がわかる』 GIS を使った自己紹介はこちら。ESRIジャパン(株)所属、元青山学院大学非常勤講師を兼務。日本地図学会第31期常任委員。発言は個人の見解です。

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