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完全理解!MGRS (Military Grid Reference System)

2017/11/13 (月)

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MGRS とは

MGRS とは Military Grid Reference System の略です。以前の記事にも書きましたが、米軍発祥で NATO で使われてきた世界中の場所を最大 1 メートル オーダーで示すために開発されたグリッド コードです。

日本では地理院地図に『UTMグリッド』や『UTMポイント』と書かれているのでそういう名称で理解している人も多いですが、国際的には通じません。国土地理院の広報にも指摘しましたが独自用語はやめて正しい用語を広めてほしいものです。

Military と書かれていますが、元々 UTM 図法もインターネットも軍事目的が発祥なので気にする必要はありません。MGRS は UTM 座標系をベースとした地理識別子による空間参照(間接参照系)で、全世界を 7桁で 10km四方、15桁で 1m四方の範囲を特定できるものです。投影座標系に由来するので緯度によって特定できる範囲の面積が異なる「約」ではなく厳密な距離四方で特定できます。

MGRS の仕様(ArcGIS for Desktop ヘルプより引用)

MGRS のコードは 5つのブロックに分かれています。

ZZBGGEEEEENNNNN

ZZ : UTMゾーン
B : 緯度バンド
GG : 100,000 メートル格子ID
EEEEE : X座標(東距)(1桁~5桁)
NNNNN : Y座標(北距)(1桁~5桁)

ZZB はグリッドゾーン指定 (Grid Zone Designator:GZD) とも呼ばれます。

それぞれの読み方を詳しく見ていきます。

UTMゾーンと緯度バンド(グリッドゾーン指定)

UTMゾーンは、経度を 6度ごとに区切ったもので、西経180度から東回りにゾーン1~ゾーン60の帯があります。

緯度バンドは、南緯80度から北に向かって 8度ごとに区切ったもので、アルファベット C からはじまり、I と O を除いて X まであります。X のみ 12度の間隔があります。北欧は島嶼部の関係で変則的です。南緯80度から北緯84度までに限定される理由は UTM座標系の適法範囲だからです。UTM座標系ができた当初は北緯80度までとされてきましたが、人が住んでいるからか、今は北緯84度までに適用されます。

UTM グリッド

日本付近は、概ねゾーン 51~56、緯度バンド R、S、T となります。この UTM ゾーンと 8度ごとの緯度バンドの組み合わせをグリッドゾーン指定 (Grid Zone Designator:GZD) といいます。

なお、極地方ではユニバーサル極心平射図法 (Universal Polar Stereographic Projection) という投影法を用いて大縮尺地図が表現できます。MGRS も極地方は UPS を元に GZD が示されています。

100,000 メートル格子ID

100,000 メートル格子ID は以下の規則に基づいて決められます。

各格子は 100,000m (100km) 四方をアルファベット 2文字で示します。アルファベットの I と O は数字の 1 と 0 と混同するため使用しません。緯度バンドも同じ理由です。アルファベットの 1文字目は経度方向を示し、各 UTM ゾーン の中央子午線を中心として東西 100km の格子を 4つ、つまり 1つのゾーンに 8つの格子が配置されます。8つの格子は UTMゾーン1 から東回りに A~H、J~R、S~Zの計24文字(前述したように I と O は使用しない)が使用されます。ゾーン4 からは再度 A~H・・・と繰り返し使用されます。

アルファベットの 2文字目は緯度方向を示し、赤道から 100km ごとに区切られ、北半球では UTM ゾーン番号が奇数の場合は A~V、V の次は A と繰り返し、偶数の場合は F~E(V の次は Aとなり)、E の次は F と繰り返されます。南半球の場合は北距が設定されているので、赤道の直南では V となり、南に向かって U, T, S とアルファベットの逆順となります。同じゾーン内に複数同じ ID が存在しますが、グリッドゾーン指定で示された範囲があるため 100km 四方内で他の ID と重複することはありません。

MGRS 100km ID早見表

経度 1度の長さは高緯度になるほど短くなるため、100,000メートル格子は隣接する UTM ゾーンと重複したり、アルファベットが東西に連続しない場合があります。同様に緯度バンドは南緯 80度から北に向かって 8度(X のみ 12度)の間隔(角度)で区切られるため、距離に基づいて区切る格子 ID のアルファベット 2文字目も A や F で始まらない場合があります。

ゾーン54NとUTMグリッド

なお、MGRS から UTM座標系の座標値に換算する場合は、1つのゾーン内に同じ格子ID が存在するため、グリッドゾーン指定の緯度バンドが原点からどの程度の距離が離れているのか知る必要があります。これも早見表を参考にするとおおまかに分かります。WGS84 において、中央子午線上で赤道から緯度バンドの南端までの距離を示した表も付けておきました。UTM座標系の座標値を MGRS に換算する際に利用してください。

極地方の 100,000 メートル格子ID

南緯80度以下と北緯84度以上の極地域は UTM座標系の適用範囲外となるため、UPS 図法(Universal Polar Stereographic:ユニバーサル極心平射図法)を使用します。MGRS も極地域には別の規則に従って 100,000メートル格子ID が割り当てられています。

格子ID の付与は似ていますが若干異なります。経度180度を下、経度0度を上にして表現した UPS図法に基づきますが、この場合 UTM ゾーンは指定しようがないで省略されています。緯度も指定しようがないのですが、緯度バンド相当として、南極の場合は標準時子午線と経度180度の子午線を結んだ線の左右に AB、北極の場合は YZ と指定されています。100,000メートル格子ID の命名規則は同じですが、南極の場合は南緯80度まで、北極の場合は北緯84度までが適用範囲となり、範囲が異なります。100,000 メートル格子ID は以下のようになります。

100,000メートル格子ID(北極・南極)

X座標・Y座標

X座標・Y座標は 100,000メートル格子が示す範囲の南西端を原点とした整数座標値で示されます。最大 10桁を使用します。桁数を少なくすることで広い特定をすることもできます。

  • 10桁の場合(XXXXXYYYYY):1メートル四方
  •  8桁の場合(XXXXYYYY):10メートル四方
  •  6桁の場合(XXXYYY):100メートル四方
  •  4桁の場合(XXYY):1,000メートル四方
  •  2桁の場合(XY):10,000メートル

100,000メートル格子ID は UTM座標系の座標値 6~8桁目を示しますが、1~5桁目は UTM座標系の座標値そのものなので互換性があります。

UTM座標系の座標値は、赤道と各ゾーンの中央子午線が交わる点が原点となりますが、座標値がマイナスとならないようにするため、東距・北距という原点シフトが設定されています。北半球を示す UTM座標系の原点は(X:500,000m, Y:0m)で、南半球を示す UTM座標系の原点は(X:500,000m、Y:10,000,000)となります。

極地方の X座標・Y座標

極の場合は XY座標は両極点の座標が(X:200,000m、Y:200,000m)となるように指定されます。

地形図上での表記

実際に陸上自衛隊で使用される地形図(陸上自衛隊は地理情報隊という独自に地図調製する部隊を持っています)では、MGRS の XY座標を X軸 Y軸それぞれ2桁、合計4桁で表して 1km四方が特定できるようになっています。1:50,000 の地形図であれば、格子の間隔は 2cm となり、1cm が 500m として距離が計測できるのです。

映画「シン・ゴジラ」に出てくる地形図

上のシーンでいうと、「5048」は「54SUE5048」となります。ArcGIS Online のマップ ビューアーを表示して住所検索に左記のコードを入力するとこのような結果になります。

100km の範囲を超えるような地上戦闘はまずないし、地形図の図郭も限られているので 5桁の座標値が分かれば十分です。早く判読するため座標 4, 5桁目の 1~99km を示す 2文字が印刷されており、1km 未満は定規で測って推定します。5桁以下の数値は MGRS も UTM表記も同じ値となるので、これが後述の UTM表記・UTMグリッドと混同する要因かと考えます。

UTM表記

「54S 350000 3948000」のように、UTM のグリッドゾーン指定と UTM座標系における投影座標系の座標値を示す方法もあります。数値の軸が分からないので「54S 350000E 3948000N」と書かれる場合や、X軸とY軸で桁数が違うため「54S 0350000 3948000」0で桁埋めされる場合もあります。この表記を何というかはっきりした言葉は見つけられていませんが、ArcGIS のヘルプを読む限りでは「UTM表記 (UTM notation)」と言うようです。

座標は XY などの軸を持った「数値」のみで表す必要があります。「UTM表記」は UTM座標系の座標値が基にはなっていますが、アルファベットも含む文字の連結ですし、UTM 座標系の座標値は日本付近のように X座標と Y座標の桁が異なるので分かち書きしないと正確には読めません。そのため、私は UTM表記を「地理識別子」と理解しています。

UTM表記ではゾーンの原点からの距離を整数で示しますので、MGRS の 100,000 メートル格子ID の部分も数値で示します。数値はゾーンの原点からの座標値を整数で記述するので、北緯か南緯かが分かれば緯度バンドはなくても位置が特定できます。緯度バンドには「N」と「S」という文字があるところも紛らわしいです。

UTM表記で示された値

例題

たとえば(グリッドゾーン指定が 54S と仮定して)地図上に「5048」と書かれていたら、UTM表記は「54S 35000 3948000」となります。これを MGRS に換算するには次のように考えます。ゾーン54 の原点は北緯0度、東経141度で東距が 500,000m と決められているので、原点から西に 150,000m、北に 3,948,000m の場所となります。MGRS では座標値の 6桁目以上を 100,000 メートル格子ID で示しますので、ゾーン54 は早見表のグループ6 となり、(300,000 3,900,000)は「UE」となります。

逆に MGRS で「54SUE5048(54SUE5000048000 の省略形)」と示された場合は「UE」範囲の原点(南西端)が X:300,000m、Y:3,900,000m ということになり UTM表記は「54S 350000 3948000」となります。100km 未満の値(整数の 5桁目まで)は MGRS も UTM表記 も同じ値になっていることが分かります。

開発者向け

ArcGIS Online のマップ ビューアーにある住所検索用ボックスでは、ロケーター サービスの力を借りて MGRS から緯度経度を求めてジャンプすることができます。逆に緯度経度から MGRS のコードを求めることは、現時点では実現できていません(住所を求めることはできます)。しかし、ArcGIS REST API を使えば MGRS の正引き・逆引きが可能です。

http://tasks.arcgisonline.com/ArcGIS/rest/services/Geometry/GeometryServer

FromGeoCoordinateString

ToGeoCoordinateString

まとめ

MGRS の読み方について解説してきました。

  • 表記内にアルファベットが 3文字含まれていたら MGRS
  • MGRS の XY座標の下5桁は UTM表記と同じ

UTMゾーンと緯度バンド (GZD) は緯度経度という「角度」に基づいて範囲を決めますが、100,000 メートル格子ID と XY座標は UTM座標系の原点からの「距離」に基づいて決められているので、両者の組み合わせで場所を特定するというところがややこしいのです。

MGRS や UTM表記と度分秒・十進経緯度とで相互変換できれば完全理解となるのでしょうが、それはソフトウェアの機能に任せることとしてここでの説明は省略します。興味がある方は政春尋志氏の書籍をご一読ください。

地図投影法

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先週末地上波初放送されたシン・ゴジラを見て、防衛省のシーンで写っていた地形図の MGRS コードがどの場所を示しているのか気になったことから MGRS の仕組みについて調べ、MGRS の理解がいまいちだったところが今回やっと理解できました。

「UTM グリッド」との違い

国内で使われている「UTMグリッド」という用語と区別するためにあえて英語で書きますが、「UTM Grid」と「MGRS」は別のものです。日本では行政機関も含め「MGRS」を「UTMグリッド」と読んでいるため混乱してしまいます。地理院地図のような国内で使われている用語として「UTMグリッド」と書かれた場合、それは「MGRS」と理解すれば良いと説明しました。

海外のサイトなどで説明されている「UTM Grid」は「MGRS」とは異なります。以下の動画では UTM座標系で投影した地図の座標値の整数部分用いてコード化したものを URMグリッドといいます。つまり、「MGRS」の「100,000 メートル格子ID」部分も座標で示したものが、国際的にも通じる「UTMグリッド」です。

ArcMap のデータ フレーム プロパティで格子線を作成し「MGRS」スタイルを適用した場合、小縮尺なら「100,000 メートル格子ID」が表示されるのですが、1:100,000 など注縮尺以上にすると、四隅には UTM座標系の座標値しか表示されません。

海外出身の方から伺った説明だと、国際的には「MGRS」の使用は廃れていて、「UTMグリッド」が主流になっているのだそうです。地図も紙地図から電子地図が主流になりましたが、電子地図をそのまま扱うと図郭を意識する必要がないので、「100,000 メートル格子ID」で大まかな区域を識別する必要性が薄れてきたのかもしれません。

繰り返しますが、コード値に「グリッドゾーン指定」のアルファベット 2文字が登場した場合は「MGRS」であり、国際的には「UTMグリッド」というと混乱を来すので誤解の無い用語に揃えてほしいものです。

MGRS は災害対応はじめ国内での利用は広がると思われますのでまとめました。

2017年12月8日追記

昨日の GeoDev Meetup #12 で発表した内容を追加しました。

  • ArcGIS Online の検索デモ ムービー
  • ArcGIS REST API の操作デモ  ムービー
  • LT のスライド

2018年1月23日追記

MGRS 早見表に UTM グリッドと北極・南極の 100,000メートル格子ID を追加しました。

2022年1月23日追記

UTMグリッドの説明を追記しました。

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  • この記事を書いた人

羽田 康祐

伊達と酔狂のGISエンジニア。GIS上級技術者、Esri認定インストラクター、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、潜水士、PADIダイブマスター、四アマ。WordPress は 2.1 からのユーザーで歴だけは長い。 代表著書『地図リテラシー入門―地図の正しい読み方・描き方がわかる』 GIS を使った自己紹介はこちら。ESRIジャパン(株)所属、元青山学院大学非常勤講師を兼務。日本地図学会第31期常任委員。発言は個人の見解です。

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