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地図で使用される角度と方位の種類

2016/8/18 (木)

北の方角というと北極点の方向を指していると思うのが普通かもしれませんが、実は北には真北、磁北、方眼北の 3種類あります。また、方位を示す角度もいろいろあります。ここではその違いについて解説します。

角度の種類

方位・方角を簡単に示すには東西南北を使いますが、より細かく示すには角度を使用します。この角度には主に方位角と極角の 2種類があります。2種類の角度は相互に変換できる式があります。

方位角 (azimath)

方位を角度で示す際に使う最も一般的なものです。地図の世界では北(上)を 0 度とした時計回りに正となります。方位角左手系となります。

方位角

極角 (polar angle)

数学ではデカルト座標系の右方向を 0度として反時計回りに正となります。これを極角 (polar angle) といいます。地図学で使用する "polar angle" は天文学・航法由来で「極角」といい(出典)、数学由来だと「極座標の偏角」と言うようです(出典)。ArcGIS ヘルプで「Polar」を「極座標」と訳していますが、「極座標」は "polar coordinate system" だし、地図学用語辞典では "polar case" を「極投影」としているので私は「極角」の方がしっくりくると考えています。極角は右手系です。

極角

その他の角度

ArcGIS で設定できる角度には他に 2種類あるのですが、あまり一般的ではないのでまとめて説明します。

  • 四分円方位角 (Quadrant bearing):子午線である北 (N) もしくは 南 (S) から東 (E) もしくは 西 (W) に向かって何度からを示す表記です(例 N45°E)。
  • 南方位角 (South azimuth):通常方位角は北から示す North azimuth に対して、South azimuth というと南から時計回りに計算します。

GIS ソフトウェアでは、多くの場合ポリゴン ジオメトリを塗りつぶすために周囲を時計回り(右回り)で構成している由来が方位角(左手系)にあると聞いたことがあります。ちなみに、地理情報標準の空間スキーマではポリゴンとほぼ同義となる曲面 (GM_Surface) は右手系、つまり反時計回りで面を認識します。なぜ逆なのかは不明ですが、図形は極角(この場合は極座標の偏角と言うべきでしょう)が一般的だからではないかとのことでした(伺った人の回答も推測と断っておきます)。なお、平面直角座標系 の X軸が南北方向なのは、天文測量は北極を基準にしていた経緯から北極を基準にしているので南北方向が X軸になったそうです(これも伺った人の回答も人伝いとのこと)。

角度の単位

角度の方向が決まったら次は角度の単位です。角度を使用する方法を「度弧法」といい、一般的には「度」が使用されますが他にも周囲があります。ArcGIS ではさまざまな角度で表現・設定することができます。

度 (degree)

一周を 360 とした角度です。1度は、円の 1/360 を表します。度のうち 1度に満たない部分を小数値で表したものを「十進経緯度」といいます。これも 1度=60分、1分=60秒の「度分秒」でされるのが一般的です。「度」「分」「秒」の記号はそれぞれ「°」「′」「″」となります。度分秒で示した方が人間には分かりやすいですが、度が 10進数なのに対して分と秒は 60進数なのでコンピューターでの計算が面倒です。そのため GIS ソフトウェアでは内部処理で十進経緯度に換算して計算します。十進経緯度と度分秒の詳しい説明はこちらをご覧ください。

ラジアン (radian)

角度を「度」で計算すると円周や面積は円周率π を計算しなければなりません。円周率は正確な数値が出せませんので、計算科学の世界では円周率計算しなくても良い単位としてラジアン (rad) を使用します。1ラジアンは円周上でその円の半径と同じ長さの弧を切り取る2本の半径が成す角の値です(引用)。

1ラジアンは 180÷π で約57.24...度となります。

ミル (mil)

主に軍事関係で使われる角度で、日本語では「密位」という当て字で「みりい」と呼ばれて時代があったそうです(出典)。

1ミルは元々 1/1000 ラジアンで「ミリラジアン」に由来しており、この場合は (360/2000π)=約0.0573度が 1ミルとなります。360度が 6283ミルと中途半端なので NATO や自衛隊は 360度を6400ミルとし(360/6400 = 0.056 25° が1ミル)となります。以前自衛隊の装備品を見学した際、たしかに一周 6400mil と書かれていました。ArcGIS も 360/6400 ミルとなります。その他に歩兵ミルとか砲兵ミルとか割る値が異なったものもあります。

数年前に「シュトリヒ (Strich)」という用語を聞いたことがある人がいるかもしれませんが、シュトリヒはミルのドイツ語読みです。この辺やこの辺を読むとミルの必要性はこの辺この辺この辺のサイトで詳しく解説しています。

1000m 先の物体が 1m に見える幅が 1ミル(シュトリヒ)となります。

その他の角度単位

ゴン、グラードなどいろいろあります。

方位の種類

次に北の示す方向の種類についてです。方位には新北・磁北・方眼北の 3種類があります。

真北 (true north)

北極点を示す方位です。北(方位角 0 度)と聞いてほとんどの人が想像するのがこの「真北」でしょう。GNSS(GPS)デバイスが示す方位角はたいてい真北を示すのですが、ガーミンなど一部の機種では真北と次に説明する磁北が選択できるデバイスもあります。

真北が示す場所(投射図法)

真北が示す場所(投射図法)

磁北 (magnetic north)

磁北はコンパス(方位磁針)が指す北の方位です。高校の地理や地学で習われた方もいるでしょう。方位磁針の N 極は厳密には北極点の方向を指していません。コンパスが示す北は、北磁極と呼ばれる場所の方向を示します。コンパスが指す北の方向を「磁北」といい、真北と磁北の水平差を偏角といいます。偏角は 2010 年時点東京付近で約 7 度で、場所によって偏角の大きさは異なります。また、年々北磁極の場所も変化しています。私が高校の地学で習った頃より偏角は大きくなっています。さらに、厳密にはコンパスの指す方向は垂直方向にも傾いていて、これを俯角といいます。俯角は 2010 年時点東京付近で約 49 度あります。アナログ コンパス(磁針が動くやつ)を使っても磁針が垂直方向に傾くことはありませんが、これはコンパスのバランスが水平になるよう調整されているためです。しかし、偏角は調整されていないので、真北を知るにはその場所の偏角を調べて差分を差し引く必要があります。デジタル コンパスだと現在地が分かれば偏角が分かるので機種によっては真北を示すことができます。

地磁気偏角(2010年1月1日時点) 国土地理院 Web サイトより引用

地磁気偏角(2010年1月1日時点) 国土地理院 Web サイトより引用

地磁気の偏角は場所や時期によって異なっており、その大きさは観測によって求められるものを知っておく必要があります。つまり、デジタル コンパスで真北を求めたり、GIS ソフトウェアの地図上で磁北を示すには偏角を求めるためのデータベースが必要ということになります。国土地理院の地形図には図郭付近の偏角が記載されています。偏角のデータの閲覧は国土地理院の Web サイトから可能ですが、GIS ソフトウェアで使えるデータの所在は知りません。ご存じの方は教えてください。

参考:国土地理院 地磁気測量

ちなみに、飛行場の滑走路に番号が書かれていますが、あの番号は磁北による方位角の上 2 桁となっています。滑走路の方位角は磁北なのです。

方眼北 (grid north)

方眼北とは地図上の真上です。地図にはさまざまな投影法がありますが、投影法によっては地図の上が真北になるとは限りません。地図上の上が真北と一致するのは、メルカトル図法のようなすべての経線が平行になっている投影法か、中央子午線(地図の左右中央)のある投影法の中央子午線上です。ただし、正距方位図法のような、方位図法で北極点が地図の中に存在する場合は、真北と方眼北がおおきくかけ離れます。円筒図法は方眼北と真北が一致しますが、円錐図法、方位図法、擬円筒図法は地図の真上が真北とはなりません。

円筒図法(メルカトル図法)

円筒図法(メルカトル図法)

先ほど真北の図で示した投射図法を見ると、地図の左右真ん中では真上が真北ですが、左右両端に行くほど真北が真上ではないことが分かります。投影された地図は地図上の真上が北なので、下図のように地図の端から方位角 0 度と指定した場合は真北を指しません。投射図法では中央子午線に限り方眼北と真北とが一致します。下図のように、ArcMap 上で投射図法のマップを表示し、[エディタ] ツールバーから頂点を方位角 0 度として指定すると北極点方向とはなりません。方眼北では真上が北(0度)だからです。

方位図法(投射図法)による方眼北

方位図法(投射図法)による方眼北

地形図の UTM 座標系や国土基本図の平面直角座標系で使用されている横メルカトル図法でも真北と方眼北が一致しません。方眼北と真北が一致するのは原点を通る経線である中央子午線上のみです。UTM 座標系のゾーンは原点の経度から東西に 3 度の幅を持っています。日本付近で UTM ゾーンの中央子午線から 3 度東西に離れた地点から方眼北と真北の差を求めると約2度の差があります。

UTM 座標系第 54 帯での真北方向

UTM 座標系第 54 帯での真北方向

まとめ

角度には、

  • 極座標系の一般角: デカルト座標系右方向が 0 度で反時計回りに正
  • 方位角: 北が 0 度で時計回りに正

の 2 種類があり、方位角には、

  • 真北: 北極点の方向が 0 度
  • 磁北: コンパスで示す真北が 0 度
  • 方眼北: 投影座標系の真上が 0 度

の 3 種類があります。

GIS ソフトウェアで使用される角度は角度を指定する場合は、通常方眼北が使用されます。投影法によっては図上の任意地点で真北が一意に定まりませんし、磁北を求めるには任意地点の偏角が必要になるからです。ただし、地図の投影法が円筒図法(メルカトル図法、ミラー図法、正距円筒図法など)や地理座標系(正距円筒図法と同義)で表示されている場合、あるいは一部の図法の中央子午線上に限り真上が真北と一致します。角度は換算が可能なので、極座標、方位角の切り替えができます。ArcMap なら [編集オプション] から指定ができます。ArcGIS Pro なら [オプション] → [単位] で設定できます。

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  • この記事を書いた人

羽田 康祐

伊達と酔狂のGISエンジニア。GIS上級技術者、Esri認定インストラクター、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、潜水士、PADIダイブマスター、四アマ。WordPress は 2.1 からのユーザーで歴だけは長い。 代表著書『地図リテラシー入門―地図の正しい読み方・描き方がわかる』 GIS を使った自己紹介はこちら。ESRIジャパン(株)所属、元青山学院大学非常勤講師を兼務。日本地図学会第31期常任委員。発言は個人の見解です。

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